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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)1981号 判決 1983年1月26日

控訴人

高城武雄

右訴訟代理人

貝塚次郎

被控訴人

鈴木レイ

須之内禧武

右訴訟代理人

安藤章

主文

原判決を取り消す。

本件を水戸地方裁判所に差し戻す。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  本位的控訴の趣旨として主文一、二項同旨と訴訟費用は被控訴人の負担とする。

2  予備的控訴の趣旨として

(1) 原判決を取り消す。

(2) 被控訴人鈴木レイは控訴人に対し金一一〇〇万円及びこれに対する昭和四九年一月一六日から完済まで日歩金八銭二厘の割合による金員を支払え。

(3) 被控訴人須之内禧武は訴外伊藤和男に対し原判決添付物件目録記載の各土地について同添付登記目録記載の抵当権設定登記手続をせよ。

(4) 仮りに右が認められないときは、被控訴人須之内禧武は控訴人に対し金一一〇〇万円及びこれに対する昭和四九年一月一六日から完済まで日歩金八銭二厘の割合による金員、仮りにしからずとするも同四八年一一月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(5) 訴訟費用は被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人須之内禧武

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  主張

当事者双方の主張と立証は、被控訴人須之内禧武代理人において、当審で、「債権者代位権の行使による私法上の効果は直接債務者に帰属し、総債権者のための共同担保となるものであり、訴外伊藤に対する破産宣告により本件訴訟手続の中断を認めなくても、債権者の権利保護に欠けることはないのであるから、債権者取消訴訟に関する規定を拡大解釈してまで本件訴訟手続の中断を認めるべきではない」と述べたほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。なお、被控訴人鈴木レイは当審口頭弁論期日に出頭しない。

理由

職権をもつて判断するに、債権者代位訴訟における原告は、その債務者に対する自己の債権を保全するため債務者の第三債務者に対する権利について管理権を取得し、その管理権の行使として債務者に代り自己の名において債務者に属する権利を行使するものであるから、その地位はあたかも債務者になり代るものであつて、債務者自身が原告となつた場合と同様の地位を有するに至るものと考えられる(最高裁昭和五四年三月一六日第二小法廷判決・民集三三巻二号二七〇頁参照)。他方、訴訟の当事者が破産の宣告を受けたときは、その訴訟手続は中断する(民訴法二一四条)のであるが、これは右破産者の財産が破産宣告の結果原則として破産財団に帰属し、当事者はこれについての管理処分権を喪失して破産管財人のみがこの権能を有するに至ることによるものであると解される(破産法六条、七条参照)。また破産法は破産財団の管理処分権が破産管財人に専属することの故に、債権者取消訴訟の係属中に当事者でない債務者が破産宣告を受けたときでも、その訴訟手続は中断する旨規定する(八六条)。

右のような債権者代位訴訟の構造や破産法の規定の趣旨に鑑みると、債権者代位権に基づく訴訟の係属中に債務者が破産宣告を受けたときは、その訴訟手続は破産管財人に追行させるのが適当であるから、民訴法二一四条、破産法八六条を類推して、訴訟手続は中断するものと解するのが相当である(これに反する被控訴人須之内主張の見解は採用できない。)。

これを本件についてみるに、控訴人主張の請求原因の要旨は、控訴人は訴外伊藤に対して昭和四八年九月二七日金一七五〇万円を弁済期日は同年一〇月二〇日、利息年一割五分、損害金日歩八銭二厘の約束で貸付けた貸金債権を有しているのであるが、同人には弁済資力がないところ、(1)伊藤は、被控訴人鈴木レイに対し同年一一月一六日金一一〇〇万円を弁済期日昭和四九年一月一五日、利息一割五分、損害金日歩八銭二厘の約束で貸付けた貸金債権を有する。(2)被控訴人須之内は、被控訴人鈴木に対し、同人の伊藤に対する前記貸金債務を担保するために、自己所有の本件不動産に抵当権設定契約を締結する代理権を授与し、被控訴人鈴木はこれに基づいて昭和四八年一一月六日伊藤との間に右不動産につき抵当権設定契約を締結したので、伊藤は被控訴人須之内に対し右契約に基づく抵当権設定登記請求権を有する。(3)仮りに被控訴人鈴木に前示代理権がなかつたとすれば、同人は被控訴人須之内の権利証等を伊藤に示して右代理権が授与されている旨同人を欺き、右貸付を受けたことになり、これにより伊藤は金一一〇〇万円の現実損害と右弁済期日である昭和四九年一月一六日以降完済までの日歩八銭二厘の割合による約定遅延損害金相当の利益を失つたので、被控訴人鈴木に対し不法行為による右と同額の損害賠償請求権を有するのであるが、被控訴人須之内は、故意又は過失により被控訴人鈴木の右不法行為を幇助したものであるから、被控訴人鈴木の共同不法行為者というべく、伊藤は被控訴人須之内に対し前同様の損害賠償請求権を有する。よつて、控訴人は、伊藤に対する前記貸金債権を保全するために、同人に代位して、(1)被控訴人鈴木に対し、伊藤の同被控訴人に対する貸金一一〇〇万円とこれに対する昭和四九年一月一六日以降完済まで日歩八銭二厘の割合による遅延損害金の支払いを、(2)被控訴人須之内に対し、本件不動産につき別紙登記目録記載の抵当権設定登記手続をなすことを、(3)仮りに右(2)の請求が認められないときは、被控訴人須之内に対し前示損害金一一〇〇万円とこれに対する昭和四九年一月一六日以降完済まで日歩八銭二厘の割合による金員(仮りにこの特別損害金が認められないときは、不法行為時である昭和四八年一一月一六日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金)の支払いを、それぞれ求めるというのである。

ところで、伊藤は、昭和五六年六月九日午后一時、原裁判所において破産宣告を受け、弁護士井坂啓が破産管財人に選任されたことは控訴人と被控訴人須之内との間に争いなく、被控訴人鈴木との間においては原審証人伊藤和男の証言により明らかである。

そうすると、控訴人が本件で主張する伊藤の被控訴人鈴木に対する貸金債権、被控訴人須之内に対する抵当権設定登記請求権ないし損害賠償請求権は、いずれも右破産宣告により破産財団に属するに至つたものと認められる。

そうであれば、前説示のとおり、本件訴訟は右伊藤の破産宣告により中断したものといわなければならない。然るに、原審は以上と異る見解のもとに右中断を認めず、引き続いて審理判決をしたのであるが、この措置は前説示に鑑み違法であるから原判決は取消を免れない。よつて本件を水戸地方裁判所に差し戻すこととする。なお、被控訴人須之内は原審で本訴を却下すべき旨主張するが、叙上の理由から採用できない。よつて、民訴法三八九条を適用して主文のとおり判決する。

(田中永司 武藤春光 安部剛)

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